It's a beautiful day

取るに足らない、ささやかな出来事について

大事なものは目に見えないということについて

大事なものがずっと長いあいだ目の前にあるのに、それに気づかないでやり過ごしてしまうことって結構ある。そして後から知って失敗したと悔やんだり、なんで気づかなかったんだと残念に思ったりする。
床暖房の話だ。

賃貸マンションの契約更新の半年前に管理会社から更新書類が送られてきた。駅から遠いことを除けば特に不満もなく、更新するつもりだったのだが賃料の欄を見て驚いた。
さりげなく千円値上げしているではないか。
更新するたびに家賃が上がるのは遠い昔の話で、最近では住み続けてもらうために家賃を低くしていく方が正解だと思う。更新してもらえないとなると、掃除したりリフォームしたり敷金返したりと急な出費がかさむのと、次の入居者がすぐに決まるとも限らないからだ。
とはいえ、たかが千円。千円の値上げが気に食わないからといって更新しないという金額でもない。でもなぜ千円、というもやもやした気持ちを抱えたまま管理会社の担当者に会って契約更新することにした。

事件は、契約内容にある設備の説明をしてもらっているときに起こった。
千円にイライラしていたので、聞き逃しそうになったが、設備の説明で「床暖房つき」と言っているのだ。
自慢ではないが、この物件に引っ越して来てから床暖房など使ったこと一度もない、なぜならそんなものはついていないからだ。なので自信を持ってこう言った。床暖房などついておりません。
担当はちょっと驚いた顔をして、そんなはずはないんですが、壁にスイッチついていませんでしょうか、と言う。
床暖房はついていないと言い切ったものの、そんなことを言われ急に自信がなくなり、そういえば目的不明のタイマーがトイレの横についていたことを思い出す。
このタイマーは、スイッチをオンにすると、ガチッとスイッチがどこかで入った音がし、それっきり何も起こらない謎のタイマーだったのだ。というかそう理解していたのだ。よく考えたら、目的不明のタイマーなどついているはずもないのだ。
念のため確認してみましょうなどとモゴモゴと言いつくろい、家に戻り例のスイッチをオンにしてみた。しばらくリビングに裸足で立ち、待っていると暖かさが少しずつ足裏から伝わって来る。これはきっとあれだ。床暖房だ。

思えば、ここに越してから二年近く、地に足をつけた生活をしていなかったということなのだろう。
床暖房だけに。
お後がよろしいようで。