It's a beautiful day

取るに足らない、ささやかな出来事について

深夜のカップル

あと少しで終電だぞという時間帯、新宿駅から数分の距離にある地下のドトールで、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。なぜそんな時間にそんな場所で本を読んでいたのかというと、暇を持て余していたからだ。家に帰ってもひとりなので、誰かほかの人たちがいる場所にいたかったのだと思う。

隣の席には見るからに年が離れたカップルが向かい合わせに座りひそひそ声で話をしている。男性のくたびれたスーツ姿からすると会社帰りなのだろう。冴えないワンピースを着た女性の方はよく見るとハンカチを目元に当ててすすり泣きをしているようだ。ふたりともどんよりとした空気を発散している。
ときおり聞こえてくる話の内容からすると、男性は結婚していて、二人は同僚のようだ。仕事帰りに男性の家によるのは良くないよ、ということを女性に力説している。
当たり前だが、その家には奥さんがいるからだろう。
しかし、女性がすすり泣きを続けている間の男性の主張にはブレが出始める。
仕事帰りに家によるのは困る。
いやまって、トイレを借りるという理由なら大丈夫かもしれない。
たぶん、週一回くらいならいいのではないか。

極端な話、コミュニケーションは相手をコントロールしようとする試みとも言える。相手の目の前ですすり泣くだけで、ひと言も発することなく相手をコントロールしてしまう光景を目撃し、ただただこの女性の超常的な力に恐れ入るだけであった。