It's a beautiful day

取るに足らない、ささやかな出来事について

ゾンビ自転車

 

蒸し暑い夏の午後だった。
線路沿いの道を汗をかきかき駅に向かって歩いている途中、自転車が向こうから走ってきた。
走ってきた、と言ってもたいしたスピードではない。もしろユラユラとこっちに向かってくるくらいの感じだ。
自転車に乗っていたのは、ぱっと見たところ特に特徴のない中年の女性で、中途半端な長さの髪を真ん中で分け、目をかっと見開きまばたきもせず、背筋を伸ばしてサドルにまたがっている。

なんとなく不気味な感じがしたこともあり、線路ぎわの板張りのフェンスに体を寄せて自転車が通り過ぎるを待っていると、女性を乗せた自転車は脇を通り過ぎるのではなく、ブレーキをかけずにまっすぐこちらに突っ込んできた。慌ててハンドルを手で押さえて自転車を止めると、女性は自転車ごとフェンスに寄りかかり、ずるずると少し滑り、熱く焼けたアスファルトの道路の上でそのまま動かなくなった。目を見開いたまま。
道を歩いていて、死体が自転車に乗って突っ込んでくるという経験はあまりしたことがないので、あまりの事態に驚いてしまい、とっさに反応ができない。3秒くらい経っただろうか、女性がピクリともしないのを見て、軽く頬を叩いてみる。大丈夫ですか?大丈夫ですか?

救急車を呼ぶべきか自問していると、突然、女性がむくりと起き上がり、表情を変えず何も言わず、そのまま自転車をこいで去っていった。
目は見開いたままだった。

ゾンビに出会った、のだろう。

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